離職率の全国平均は15.0%!厚生労働省のデータで解説
「経営層から、急に自社の離職率について報告を求められた」「同業他社と比較して、うちの離職率は高いのだろうか?」
人事や総務を担当されている方の中には、このような課題に直面し、データの集め方や報告の仕方に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
まずは結論からお伝えします。厚生労働省が発表した最新の「令和5年 雇用動向調査結果の概況」によると、2023年(令和5年)の日本全体の離職率は15.0%でした。
この記事では、単に全国平均のデータを提示するだけではありません。
人事担当者であるあなたが、自信を持って経営層に報告し、次の打ち手を検討するために必要な情報を、専門家の視点から網羅的かつ分かりやすく解説します。
- 業界や年齢といった様々な切り口での平均離職率と、自社の立ち位置
- 報告に必要な、正確な離職率の計算方法
- 今後の対策を考える上でヒントとなる、離職の背景にある根本原因
データの羅列だけでは見えてこない「なぜ、この数値になるのか」という背景まで踏み込んで解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
まずは結論:日本の離職率の現状サマリー
多忙なあなたがまず押さえるべき、日本の離職率の現状について、要点を以下にまとめました。
すべての数値は、最も信頼性の高い公的統計である厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概況」に基づいています。
- 2023年の離職率は15.0%で、前年の15.0%と同水準でした。
- 入職率(15.3%)が離職率(15.0%)を0.3ポイントの入職超過となり、労働市場全体としては人材の流入が多い状況です。
- パートタイム労働者の離職率が特に高い
一般労働者の離職率が11.6%であるのに対し、パートタイム労働者は22.9%と高い水準にあります。
これらの基本数値を把握するだけでも、自社の状況をマクロな視点で捉える第一歩となります。
長期的な離職率の推移から見えること
次に、短期的な視点だけでなく、過去10年以上の長期的なスパンで離職率の推移を見てみましょう。
以下のグラフは、過去の推移を表したものです。

グラフを見ると、離職率は景気動向と密接に関連していることが分かります。
一般的に、景気が良く転職市場が活発になると離職率は上昇し、逆に景気が後退すると、転職への不安から離職率は低下する傾向にあります。
特に注目すべきは、新型コロナウイルスの影響が大きかった2020年(令和2年)から2021年(令和3年)にかけて離職率が一時的に低下した点です。
これは、将来への不確実性から多くの労働者が転職を控えた結果と推測されます。
その後、経済活動の再開とともに離職率は再び上昇に転じ、コロナ禍以前の水準に戻りつつあります。
このように、自社の離職率を評価する際は、その時々の社会情勢や経済トレンドといった外部環境も考慮に入れることで、より深く多角的な分析が可能になります。
【属性別】日本の離職率を徹底比較|自社の立ち位置を知る
全体の平均値や推移を把握したところで、次により具体的な属性別のデータを見ていきましょう。
自社の離職率を単に平均と比べるだけでは意味がありません。業界、年齢、企業規模といった「属性」で細分化されたデータと比較することで、自社の立ち位置と、その数値の背景にある「なぜ?」という洞察を得ることが、課題解決の鍵となるのです。
自社が属する業界や、従業員の年齢構成など、様々な切り口で比較することで、自社の立ち位置をより正確に把握することができます。
ここで重要なのは、単に「高い」「低い」と一喜一憂するのではなく、その数値の背景にある「なぜ?」を考えることです。
このセクションでは、競合サイトではあまり触れられない、専門家の視点からの「洞察」を交えながらデータを解説していきます。
【業界別】離職率が高い・低い業界ランキング
あなたの会社が属する業界の平均離職率は、一体どのくらいなのでしょうか。
厚生労働省の同調査から、産業別の離職率をランキング形式でご紹介します。
【離職者数が多い業界ランキング】
| 順位 | 産業 | 離職者数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 宿泊業,飲食サービス業 | 142万2,700人 | 離職者の約74%(105万人)がパートタイム労働者であり、非正規雇用の入れ替わりが非常に激しいです。 |
| 2位 | 卸売業,小売業 | 135万4,600人 | こちらも離職者の約半数(67.9万人)がパートタイム労働者です。 |
| 3位 | 医療,福祉 | 115万7,100人 | 一般労働者(正社員等)の離職も73万人と多く、業界全体で人材不足と流動性の高さがうかがえます。 |
| 4位 | サービス業(他に分類されないもの) | 102万1,500人 | 派遣業などが含まれる場合があり、ここも流動性が高い分野です。 |
| 5位 | 製造業 | 74万2,000人 | 母数が大きいため人数は多いですが、一般労働者の割合が高めです。 |
【離職者数が少ない業界ランキング】
| 順位 | 産業 | 離職者数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 鉱業,採石業,砂利採取業 | 1,000人 | 業界規模自体が小さいため、離職者数も極めて少数です。 |
| 2位 | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 2万5,700人 | インフラ系は安定しており、離職者数が非常に少ない傾向にあります。 |
| 3位 | 複合サービス事業 | 3万800人 | 郵便局や協同組合などが含まれ、比較的安定しています。 |
| 4位 | 金融業,保険業 | 14万2,600人 | パートタイムの離職が極端に少なく(1万人)、一般労働者が主体の業界です。 |
| 5位 | 不動産業,物品賃貸業 | 14万1,100人 | 金融業とほぼ同水準の離職者数です。 |
ご自身の業界の数値はいかがでしたでしょうか。
例えば、ペルソナの多い「情報通信業」は12.9%であり、全体の平均よりも低い水準にあることが分かります。
このように、まずは自社が属する業界の平均値が、客観的な比較の第一歩となります。
離職率が高い業界 TOP3とその背景
ランキング上位、すなわち離職率が高い業界には、以下のような共通の構造的背景が見られます。
労働集約型のビジネスモデルであり、比較的賃金が低い傾向にあること。また、シフト制による不規則な勤務体系や、接客に伴う精神的な負担が大きいことなどが要因として挙げられます。
こちらも接客が中心で、特に若年層のアルバイト・パート従業員の比率が高いことが特徴です。キャリアパスが描きにくく、より安定した他業界へ転職するケースが多く見られます。
廃棄物処理業や自動車整備業、職業紹介事業など多岐にわたる業種が含まれますが、専門的なスキルが求められる一方で、労働環境や待遇面の課題を抱える企業が少なくないことが背景にあると考えられます。
これらの業界は、ビジネスモデルの特性上、人の入れ替わりが激しくなりやすい構造的な課題を抱えていると言えるでしょう。
離職率が低い業界 TOP3とその特徴
一方で、離職率が低い、つまり従業員が定着しやすい業界にはどのような特徴があるのでしょうか。
専門的な技術や知識が必要で、代替できる人材が少ないこと。また、事業の参入障壁が高く、安定した経営基盤を持つ企業が多いことが特徴です。
比較的高い給与水準や充実した福利厚生が整備されている企業が多いこと。また、専門性が高く、一度キャリアを築くと同業内での転職が中心になる傾向があります。
郵便局や協同組合などが含まれ、地域に根差した安定的な事業を展開している組織が多いことが、従業員の定着に繋がっています。
これらの業界から学べるのは、「雇用の安定性」「専門性の高さ」「充実した待遇」といった要素が、従業員の定着において重要な役割を果たすという点です。
【年齢・性別】年代ごとのキャリア観と離職の関係
次に、従業員の年齢や性別による離職率の違いを見てみましょう。
特に若年層の離職率の高さは、多くの企業が抱える課題です。
データを見ると、男女ともに「19歳以下」および「20〜24歳」の離職率が突出して高いことが分かります。
これは、新卒で入社したものの、理想と現実のギャップを感じて早期に転職を決断するケースが多いことを示唆しています。
現代では終身雇用という考え方が過去のものとなり、特に若手層にとっては、スキルアップやキャリアアップのための転職が当たり前の選択肢となっています。
「最初の会社で定年まで」という価値観は薄れ、より良い労働条件や自己成長の機会を求めて、能動的にキャリアを形成していく意識が高まっているのです。
【企業規模別】大企業と中小企業で離職率に差は?
競合の記事ではあまり触れられませんが、企業の規模によっても離職率には差が見られます。
一般的に、中小企業の方が大企業に比べて離職率が高い傾向にあります。
これは、大企業の方が福利厚生や教育研修制度が充実していること、多様なキャリアパスが用意されていることなどが理由として考えられます。
一方で、中小企業は従業員一人ひとりの裁量が大きく、やりがいを感じやすいというメリットもあります。
自社の企業規模を踏まえた上で、同規模の他社と比較して離職率が高い場合は、制度面やキャリアの魅力といった点で課題がある可能性を考える必要があります。
【勤続年数別】「入社3年の壁」は本当か?
「新卒で入社した社員の3割が3年以内に辞める」という話をよく耳にしますが、これはデータによって裏付けられているのでしょうか。
厚生労働省が発表している「新規学卒就職者の離職状況」を見てみると、この「3年の壁」が確かに存在することが分かります。
- 大学卒業者: 32.3%(令和3年3月卒業者)
- 高校卒業者: 37.0% (令和3年3月卒業者)
このように、学歴に関わらず、就職後3年以内の離職率は30%を超えています。
これは、入社後のギャップ、仕事への適応、人間関係など、入社初期に多くの課題が集中することを示しています。
企業にとって、新入社員が入社してから3年間をいかにサポートし、定着へと繋げるかが極めて重要な経営課題であると言えるでしょう。
正しい離職率の計算方法とは?目的別に3つの方法を解説
公的なデータと比較するためには、まず自社の離職率を正確に算出することが大前提。基本的な計算式と、新卒採用の成果を測る「3年後定着率」の計算式を押さえておきたいです。
さて、ここまで様々なデータと比較してきましたが、そもそも自社の離職率を正しく計算できなければ、比較のしようがありません。
ここでは、人事担当者として押さえておくべき、正しい離職率の計算方法を、非専門家の方にも分かりやすく解説します。
客観的な現状把握のために、まずは自社の数値を正確に算出することから始めましょう。
基本的な離職率の計算式
最も一般的で、広く使われている離職率の計算式は以下の通りです。
離職率(%) = 期間中の離職者数 ÷ 期首の在籍者数 × 100
例えば、ある年の4月1日時点での従業員数(期首の在籍者数)が300名の会社で、翌年3月31日までの1年間に15名の従業員が自己都合や定年などで退職(期間中の離職者数)したとします。
この場合の離職率は、
15名 ÷ 300名 × 100 = 5%
となります。非常にシンプルですので、まずはこの計算式で自社の年間の離職率を算出してみてください。
新卒採用で重要な「3年後定着率」の計算式
特に新卒採用の成果を測る上で重要になるのが、「定着率」という指標です。
定着率は、離職率の裏返しの概念で、以下の式で計算できます。
定着率(%) = 100% – 離職率(%)
先ほどの「新規学卒就職者の離職状況」調査に合わせて「3年後定着率」を算出する場合は、「対象となる新卒者が入社して3年経過した時点での在籍者数」を「入社時の人数」で割ることで計算します。
この指標を継続的に追うことで、採用活動や受け入れ後の育成プログラムの効果を測定することができます。
計算する上での注意点
離職率を計算し、他社と比較する際には、いくつかの注意点があります。
以下の点を認識しておかないと、誤った解釈をしてしまう可能性があります。
- 期間を統一する
比較する際は、必ず「1年間」「半期」など、計算する期間を揃える必要があります。 - 対象者の定義を明確にする
計算対象に正社員だけでなく、契約社員やパートタイム労働者を含むのかを明確に定義しましょう。公的データと比較する際は、調査の対象者定義を確認することが重要です。 - 算出目的をはっきりさせる
全社的な傾向を見るのか、新卒採用の結果を測るのかなど、何のために離職率を算出するのかによって、見るべき指標や計算方法が変わってきます。
離職率が高い企業の共通点と、その背景にある根本原因
離職理由のランキングは表面的な事象に過ぎません。本当に組織が目を向けるべきは、「人間関係」「賃金」といった表層の奥に潜む、組織全体の仕組みや文化という根本原因。問題の本質を捉えることが、効果的な対策の第一歩となります。
自社の離職率を客観的に把握できたところで、もしその数値が高い場合、次の一手として「なぜ離職が起こるのか」という原因分析が必要になります。
ここでは、具体的な対策を詳述するのではなく、多くの企業に共通する離職の理由と、その背景に潜む根本的な組織課題について解説します。
表面的な事象に囚われず、問題の本質を捉えることが、効果的な対策の第一歩です。
統計データから見る、主な離職理由ランキング
厚生労働省の「令和5年 雇用動向調査結果」では、転職者が前職を辞めた理由についても調査されています。
自己都合で離職した人が挙げた理由のトップ3は、以下の通りです。
| 順位 | 男性の離職理由 | 女性の離職理由 |
|---|---|---|
| 1位 | 労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 労働時間、休日等の労働条件が悪かった |
| 2位 | 給料等収入が少なかった | 職場の人間関係が好ましくなかった |
| 3位 | 職場の人間関係が好ましくなかった | 給料等収入が少なかった |
男女で順位に若干の違いはありますが、「労働条件」「人間関係」「賃金」が離職の大きな要因となっている点は共通しています。
多くの企業が、これらの普遍的な課題に直面していることがデータから見て取れます。
離職の根本原因は複合的|組織が目を向けるべき領域
ただし、注意すべきは、アンケートで語られる離職理由は、あくまで個人の主観であり、問題の表層に過ぎない場合が多いということです。
例えば、「給料が少なかった」という理由の裏には、「自分の頑張りが正当に評価されていない」という人事評価制度への不満が隠れているかもしれません。
「人間関係が悪かった」という背景には、コミュニケーション不全に陥っている組織風土や、マネジメント層の機能不全といった、より根深い問題が存在する可能性があります。
本当に効果的な対策を打つためには、これらの表層的な理由の奥にある、
といった、組織全体の仕組みや文化に目を向ける必要があります。
まとめ|自社の離職率を把握し、次の一手を考えるために
離職率の改善は、まず客観的なデータに基づいて現状を正しく認識することが不可欠だ。記事で学んだ計算方法と、属性別の比較データを活用して、次の一歩となる原因分析に進みたい。
今回は、離職率に関する公的データを多角的に分析し、その背景にある洞察や、自社の数値を正確に把握するための計算方法について解説しました。
経営層への報告や、今後の人事戦略を考える上で、まずは客観的なデータに基づいて現状を正しく認識することが不可欠です。
この記事を参考に、ぜひ以下の3つのステップでアクションを起こしてみてください。
- 自社の離職率を計算する
まずは本記事で紹介した計算式を使い、自社の正確な離職率を算出しましょう。 - 業界平均や属性別データと比較する
算出した数値を、業界平均や企業規模といったデータと比較し、自社の客観的な立ち位置を把握します。 - もし数値が高い場合は、その原因を分析する
平均よりも高い場合は、その背景にある組織課題は何か、という視点で原因の分析に進む必要があります。
離職率の改善は一朝一夕には実現できません。しかし、データに基づいた現状把握は、あらゆる改善活動の出発点となります。
もし、離職の根本原因の分析方法や、具体的な離職防止策についてさらに詳しく知りたい場合は、こちらの記事も併せてご覧ください。
あなたの次の一歩を、さらに具体的にサポートします。












経営層への報告のために、公的な最新データに基づいた離職率の平均値と、正確な計算方法を知りたいです。単なるデータの羅列ではなく、なぜその数値になるのかという専門家の洞察も加えて、次の打ち手を検討するための材料にしたいと思っています。