採用活動が単なるルーティンワークになっていませんか?
「採用目標を達成しても、経営課題は解決しない」と感じている人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
抽象的な概念論に終始しがちな採用戦略ですが、本記事では、その定義から、経営戦略と人事戦略に基づいて具体的な行動計画(7ステップ)へと落とし込む方法を徹底的に解説します。
この記事を読み終えることで、あなたは自信を持って上層部に説明できる、ロジックと具体性に裏打ちされた採用戦略を策定できるようになります。
採用戦略とは?定義と目的、なぜ今必要とされるのか
採用戦略とは、企業が経営目標や事業目標を達成するために必要な人材を、いつまでに、どれくらいのコストで、どのような手法で確保するかを定めた中長期的な計画のことを指します。
単に人手不足を解消するための活動ではなく、企業の未来を左右する投資として位置づけられます。
採用戦略の定義:人事戦略・経営戦略との構造的な違い
採用戦略を正しく理解するためには、それが上位概念である経営戦略および人事戦略とどのように関連しているかを知ることが不可欠です。
採用戦略は、企業の目指す方向性を示す経営戦略(最も広範な概念)に基づき、その実現に必要な人材の能力や配置を定める人事戦略(中間的な概念)の下で実行される具体的なアクションプラン(最も具体的な概念)です。
この構造を理解することが、採用活動を単なる「戦術」で終わらせず、企業価値の向上に直結させるための第一歩となります。
採用戦略を策定する4つの目的とメリット
採用戦略を策定することには、曖昧な採用活動から脱却し、経営課題の解決に直結するための明確な目的とメリットがあります。
特に重要な4つの要素を解説します。
- 経営目標の確実な達成
経営戦略に沿った人材を計画的に獲得できるため、事業目標の達成確率が飛躍的に高まります。 - コスト効率の最大化
採用目標やチャネルが明確になり、無駄な広告費やエージェント手数料の支出を防ぎます。 - ミスマッチの防止
求める人物像(ペルソナ)が具体化されるため、入社後の早期離職やパフォーマンス不足といったミスマッチを防ぐことができます。 - 組織力の向上
一貫した基準に基づき、企業文化や価値観に合致した人材が採用されるため、組織全体のエンゲージメントと定着率が向上します。
これらのメリットを上長に説明することで、戦略策定の重要性を明確に伝えられるでしょう。
採用戦略の具体的な立て方と7つの手順(フレームワーク)
「採用戦略とは何か」を理解したら、いよいよ最も重要な「立て方」のフェーズです。
ここでは、抽象的な議論に終わらせず、経営戦略から具体的な行動計画へと落とし込むための7つのステップを解説します。
Step 1:経営戦略・事業戦略からの採用目標の設定(As-Is/To-Be分析)
採用戦略は、まず企業の経営戦略(例:3年後に市場シェアを2倍にする)を起点としなければなりません。
このステップでは、現状(As-Is)の組織体制と人材能力を分析し、目指すべき理想(To-Be)の組織に必要な人材とのギャップを明確にします。
このギャップこそが、採用戦略で埋めるべき目標となります。
| 分析項目 | As-Is (現状) | To-Be (理想) | 採用目標(ギャップ) |
|---|---|---|---|
| 人員構成 | 営業職10名、エンジニア5名 | 営業職12名、エンジニア8名 | 営業2名、エンジニア3名 |
| スキルセット | ベテランが多く、最新技術者が不足 | AI/クラウド技術を持つ人材が必要 | AIエンジニア2名の獲得 |
| 組織文化 | 既存事業中心の思考 | 新規事業に挑戦的な文化 | 新規事業志向の人材の採用 |
採用目標を成功させるためのKPI/KGI設定例
目標達成度を測定するためのKPI(重要業績評価指標)とKGI(最終目標指標)を設定します。
単なる採用人数目標ではなく、質とコスト効率に着目することが重要です。
- KGI(最終目標)
採用目標人数の達成、採用目標達成後の部門売上目標達成率
- KPI(中間指標)
応募者数、内定承諾率、採用単価、部門別離職率、採用チャネル別有効応募数

採用後の「部門売上目標達成率」をKGIに加えることで、採用が経営に貢献したかを検証できるのですね。数字で成果を可視化することが大切だと実感しました。
採用後の「部門売上目標達成率」をKGIに加えることで、採用が経営に貢献したかを検証できます。
Step 2:採用ペルソナ・採用ターゲットの定義
次に、Step1で定めた目標を達成するために「具体的にどのような人材を採用するか」を明確にします。
採用ターゲットはスキルや経験に留まらず、入社後に活躍できる価値観や思考特性を含めたペルソナ(理想の人物像)として定義します。
ペルソナの定義に含めるべき主要項目は以下の通りです。
- 基本情報:年齢、居住地、最終学歴、現職の役職・年収帯
- スキル・経験:必須スキル、歓迎スキル、具体的な業務経験
- 価値観・志向:転職理由、仕事で重視すること、企業文化とのフィット感
- 情報行動:普段利用するSNS、閲覧するメディア、信頼する情報源
このペルソナが、次のステップであるチャネル戦略の選定に直結します。
Step 3:採用チャネル戦略の選定
ペルソナが「どこにいるか」「どのような情報を求めているか」という視点から、最適な採用チャネルを決定します。

チャネル選定のポイントは、採用ペルソナの特性に合致しているかという点です。例えば、高度な技術者を採用したいなら、転職サイトよりも技術コミュニティでのダイレクトリクルーティングが効果的ですね。
戦略的なチャネル選定のポイントは、採用ペルソナの特性に合致しているかという点です。
例えば、20代のUI/UXデザイナーであれば、転職サイトよりもポートフォリオサイトや技術コミュニティでのダイレクトリクルーティングが効果的です。
Step 4:採用コンテンツ戦略の策定(魅力の言語化)
採用チャネルを通じて発信するメッセージやコンテンツを具体的に策定します。
ペルソナに対し、競合他社ではなく自社を選ぶ「独自の理由」を伝えることが目的です。
メッセージは、以下の3つの軸で整理すると効果的です。
- 事業の成長性:経営戦略に裏打ちされた未来のビジョン
- 企業文化:働く上で重要な価値観や風土
- 働く環境:具体的な待遇、評価制度、成長機会
Step 5: 戦略の実行と効果測定(PDCA)
戦略を実行に移したら、Step1で設定したKPI/KGIに基づいて定期的に評価し、戦略を修正するPDCAサイクルを回します。
特に採用活動においては、市場の変化が速いため、四半期に一度など短いスパンで評価を行うことが推奨されます。
採用戦略を成功に導くための3つのポイント
競合の採用活動が「戦術」で終わってしまう中で、自社の戦略を成功に導くための高次の視点を3つ解説します。
採用活動の信頼性を高める『一次情報』の使い方
採用戦略のロジックや説得力を高めるためには、主観的な意見やノウハウだけでなく、客観的なデータで裏付けを行うことが極めて重要です。
公的機関による一次情報源のデータを参照・引用することで、採用活動の信頼性(E-E-A-T)を高めることができます。

採用市場の動向を議論する際は、厚生労働省の「一般職業紹介状況」や、経済産業省の「人材版伊藤レポート」などの資料を引用し、論理的な根拠を示すことが上層部への説明責任を果たす上で不可欠ですよ。
例えば、採用市場の動向を議論する際は、厚生労働省の「一般職業紹介状況」や、経済産業省の「人材版伊藤レポート」などの資料を引用し、論理的な根拠を示すことが上層部への説明責任を果たす上で不可欠です。
採用活動が「戦術」で終わらないためのチェックリスト
日々の採用活動(戦術)に追われ、本来の目的(戦略)を見失わないようにするためのチェックリストを活用してください。
採用戦略を成功に導くための3つのポイント
採用戦略の成功は、単に「人を採る」ことではなく、「採った人が企業に貢献し、定着すること」で達成されます。
この最終ゴールを見据えた戦略立案が必要です。
採用戦略の成功事例
概念を自社の実務に落とし込むため、具体的な成功事例を課題→戦略→結果というプロセスで見ていきましょう。
事例1: 事業拡大に伴う即戦力採用に成功したケース
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 課題 | 新規事業立ち上げに伴い、既存社員にはない専門的なスキル(データサイエンティスト) を持つ即戦力を、緊急で確保する必要があった。 |
| 戦略 | 採用ペルソナを具体的に定義し、そのペルソナが接触する技術系コミュニティでの ダイレクトリクルーティングと、専門分野に特化したエージェントにチャネルを絞った。 |
| 結果 | 採用コストは高くなったものの、即戦力人材3名を予定通り採用。 入社後1年間の離職率は0%を達成し、新規事業の売上目標を20%超過達成。 |

採用コストを惜しまず、チャネルを専門分野に絞り込むことで、即戦力の獲得と定着の両方に成功した事例ですね。ペルソナに基づいた戦略の重要性がよく分かります。
事例2: 企業文化に基づいた採用ブランディングに成功したケース
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 課題 | BtoBのニッチな業界で、企業認知度が低く、特に若手層からの応募が集まらなかった。 |
| 戦略 | 採用ターゲットを「地味だが社会貢献度の高い仕事に価値を見出す人材」に設定。 企業理念と社員のやりがいに焦点を当てたコンテンツ(採用広報)を制作し、 求人サイトではなく自社のオウンドメディアを中心に発信した。 |
| 結果 | 応募者数は微増に留まったが内定承諾率が大幅に向上し、特に文化適合性の高い人材が 確保された。採用後の従業員エンゲージメントスコアが15%上昇。 |

これは、まさに「制度を整えるだけでは、人は動きません。鍵は“内発的動機づけ”です。」という私の信条に通じますね。企業文化に深く共感する人材を採ることで、エンゲージメントが高まる好事例です。












採用戦略は、経営戦略や人事戦略という大きな枠組みの中で、最も具体的な「実行計画」だと理解してください。